厚生労働省が、新型コロナウイルスの感染防止対策として外国人にワクチン接種などを進める際、不法残留などの事実が判明しても入管当局に通報しなくてよいとする見解をまとめ、都道府県などに通知していたことが分かった。
接種しやすい環境を整え、地域社会に感染が広がるリスクを抑えるのが目的。見解を受け、茨城県大洗町は在留期限の切れた不法残留者への接種を始めた。入管難民法では、公務員に対し、国外退去の対象となる外国人の存在を入国審査官や入国警備官に通報する義務を課している。
このため、不法残留者が通報を恐れて疫学調査や接種に協力しない可能性があった。これについて、厚労省は6月28日、事務連絡の形で地方自治体に通知。それによると、強制退去の対象となる外国人にもコロナ対策を「適切に実施することが必要」とした。
その上で、公務員が通報義務を果たすと、接種などに支障が生じる場合、入管当局に「通報しないことも可能」と明記した。
ただ、通報しなくても「出頭を勧めることが望ましい」と追記した。大洗町は10月17日、在留期限の切れた外国人への接種を開始した。町内の外国人コミュニティーに呼びかけた結果、2日時点で227人から申請があり、キャンセルを除く225人が1回目の接種を終えた。
町では、外国籍住民が人口の約5%を占め、4~5月には外国人家族を中心に感染が拡大した。
町は「ここで接種を進めないと、同じような感染拡大が起きうる」として接種を決めた。出入国在留管理庁や茨城県警は、厚労省や町の対応について読売新聞の取材に対し、「コメントしない」としている。
県警は「取り締まりを緩めるつもりはない」と強調しつつ、会場周辺で接種者を狙った取り締まりを行う可能性は否定している。国士舘大の鈴木江理子教授(外国人政策)の話 「正規の滞在資格を持たない外国人の多くは、密集した環境で生活したり就労したりしており、感染リスクが高い。安心してワクチンを接種できれば彼らの生命が守られ、日本社会の感染拡大を抑制できる。ワクチン接種と取り締まりは切り離して考えるべきだ」
2021.11.03